最初のお問い合わせでは「マフラーからの白煙がとまらない」との事でした。
購入後数ヶ月でこの症状が出て、数店のプロショップに相談しコンプレッション測定やバルブステムシール交換等の作業をしてもらったとの事でしたが症状は改善されずに当店に入庫となりました。
白煙が止まらない場合の一般的な原因はヘッドガスケット抜け、オイル上がり、オイル下がりがまず考えられますが他にも白煙が出る色々な原因がエンジンにはひそんでいます。
まずはエンジンをバラしながら各部の計測と点検をしていきますと元々のシリンダーに対してピストンが小さい事、シリンダーがテーパー形状にボーリングされていること、シリンダーが楕円に磨耗してしまっていることが確認できました。
ヘッドに関してはインテークポートの中までカーボンとオイルでベトベトの状態です。
もちろんバルブの傘部もべっとりとカーボンとオイルが付着しています。
この時点でポートの中をよく観察してどのような経路でオイルがポート内に滲入してきているかを見極めます。 バルブとバルブガイドのクリアランス過多なのか、バルブタイミングの不良なのか、総合的なエンジン仕様とポート形状のバランスが悪いのかなどなど。
今回のエンジンは腰下の状態の悪さもさることながら1番の原因はバルブとバルブガイドの隙間からのオイル下がりではなく、ヘッドとバルブガイドの隙間からオイルがポート内に滲入していました。
オーナー様に現状報告と確認をしていただいた上で今後の方針をご相談させていただきました。
まずエンジンを組む時に一番大事な事は「どのような使い方をするか」をある程度決めておくことです。
サーキットを走るのか、ゼロヨンをやりたいのか、ストリートを気持ちよく走りたいのか、特に目的は無いけどスペック自慢のエンジンにしたいのか、ただ動けばいいのか、どれも立派な目的です。
今回のオーナー様はある程度しっかりとした部品で長持ちかつストリートを気持ちよく走れるエンジンを希望されましたので数パターンの見積書を作成しご相談を繰り返しながら内容を詰めていきました。
またオーナ様のご希望でエンジン以外のパワートレインや吸排気系等の変更も担当させていただきました。
まずはエンジンですが仕様が決まったのでブロックとヘッドを加工に出します。
ブロック側はピストンとセットで出しますが、最近の新型ピストンの中には通常の測定位置ではない部分に測定位置がある物もありますので加工屋さんにお願いする際にどのように測定してクリアランスはこのようにして下さいと指示をしています。
ヘッドに関してはまずは使用するカムシャフトを決めることが大切で、バルブリフトに対して使用するバルブスプリングとリテーナーを元にシートカットの際にバルブステムの突き出しは何mmに、バルブが純正位置から何mm沈むから目標圧縮比にするために面研量は何mmにと、読んでいただいていて何のことやら?と思う方も多いとは思いますが、エンジンの加工はただ「面研お願いします」、「ボーリングお願いします」だけでは思い描いたエンジンにはならない事もあるという事です。
加工から帰ってきた部品をしっかりと洗浄してエンジンを組んでいきます。
今回使用したASW製ピストンとコンロッド。
クリアランスのチェックをしてからリング合わせをします。
メタル合わせやチェーンガイドのボルトサイズアップや各部の面取り等の下準備を終えてからまた洗浄して組み立てに入ります。
クランクシャフトを組んで。
ピストン、コンロッドを組んで。
上の画像で分かると思いますが水路に細工しています。
次にヘッドです。
ガイド手前までとシートカットの際にできる段付をポート研磨していきます。
EXポートは元々この形に削られていました。 「当店ではこの形状は選択しません」が、今回はオーナ様とご相談の上このままでシートリング側のみ研磨していきます。
洗浄してバルブのすり合わせ、あたりチェック、燃焼室容積の確認と進みます。
各気筒の容積を測ったら気筒ごとのバラつきの修正をしつつ狙った圧縮比になるように燃焼室を削ります。
ヘッドの下準備が終わったら組んでいきます。
バルブスプリングの仮組みをしてセット長を確認、使用するスプリングシート厚が決まったら打ち込みタイプのバルブステムシールを組みます。
加工に出す時にしっかりと指示を出して、加工屋さんが指示通りの加工をしてくれればこの工程がかなり楽になります。
当店オリジナルのスプリングとリテーナーをを本組みします。
ブロック上面、ヘッド下面を脱脂してから合体させます。。
カムホルダーを組んでヘッドボルトを締めます。
当店オリジナルカムも組んでいきます。
ロッカーアームを12ヶ所セットして温間時のクリアランスにしてカムとロッカーアームのアタリをチェックしロッカーガイドの厚みを決定しバルブタイミングを取ります。
バルブタイミングが取れたら排気上死点後15度〜17度の時のV/P値を確認します。 このV/P値の設定はとても重要なセクションだと思います。
バルタイが取れたらフロントカバーやウォーターポンプ、クランクプーリーを組みます。
この車はクーラー付なのでATIダンパープーリーの2本ベルト仕様です。
エンジンをひっくり返してオイルストレーナーを取り付けます。
強化オイルパンガスケットを使用してオイルパンを取り付けます。
タペットクリアランスを冷間時のクリアランスに取り直してようやく完成です。
タペットカバーはエンジンを車体に載せる際に傷をつけないようにダミーの物を一時的に使用しています。
タコ足にはサーモバンテージを巻きました。
ソレックス50Φも取り付けて完成です。
仕上げにオーナー様こだわりの11連エアホーン!!
ミッションはR32用71CをOHして
デフもR180からR200LSDにして、使用目的やミッションとの相性を考えてファイナル4.375にしました。
ドライブシャフトは等速に
完成です。
幻のケンメリワークスをオーナー様の理想と好みにアレンジして細部まで仕上げた1台ですね。
当店では完全なノーマルからライトチューン、街道レーサー、競技を目的としたフルチューンまで様々なカテゴリーに対して分け隔てなく対応させていただいております。
ご相談、ご質問、お見積り等はお気軽にお問い合わせください。